塚本由晴『陳腐と更新』トークイベントレポート

2026年2月25日、SHIBAURA HOUSEにて、建築家・塚本由晴氏(アトリエ・ワン)をお招きしたトークイベントを開催しました。当日の様子を、早稲田大学創造理工学部建築学科准教授・博士で一級建築士の小林恵吾さんがレポートしてくださいました。

塚本由晴(つかもと・よしはる)
アトリエ・ワン/東京科学大学大学院教授、博士(工学)
1965年神奈川生まれ。貝島桃代と1992年にアトリエ・ワンの活動を始め、建築、美術、教育をまたいで幅広い活動を展開。ふるまい学を提唱して、建築デザインのエコロジカルな転回を推進し、建築を産業の側から人々や地域に引き戻そうとしている。2022年Wolf Award Architecture Laureate。2019年から千葉県鴨川市釜沼北集落の里山再生に取り組み、一般社団法人「小さな地球」共同理事を務める。
2026年2月、シバウラハウスにてアトリエ・ワンの塚本由晴氏によるトークイベント『陳腐と更新』が開催された。
雨天にもかかわらず会場の1階は多くの聴衆で埋め尽くされ、その関心の高さがうかがえた。筆者にとっても塚本氏のプレゼンテーションを聴くのは久しぶりであり、近年の関心や思考を直接知ることのできる貴重な機会となった。
トークは、現代都市における「更新」と「陳腐化」の関係への問いから始まる。再開発が各地で進む今日、都市環境は一見すると刷新され続けているように映る。しかし塚本氏は、その背後で、環境の陳腐化が同時に、あるいはそれ以上の速度で進行しているのではないかと指摘する。
陳腐化の主な要因としては、流行の変化や技術革新が挙げられるが、氏はとりわけ生産様式、特に保険や保証制度といった仕組みの影響を強調する。事務所兼自宅でのドラム式洗濯機の設置をめぐる配送業者の理不尽な対応を例に挙げ、「本来はできるはずのことが、実際にはできない」というディストピア的状況がいたるところで生まれていること、そしてそれが社会全体の陳腐化を加速させていることを訴えた。

こうした状況に抗うために重要なのは、新しいか古いかという単純な二項対立ではなく、物事が陳腐化しない条件を問い直すことであるという。氏は、あらゆるパッケージ型のサービスから解放され、人が自ら関わりやすい状態を確保することの重要性を説く。はじめに紹介した吉村順三設計による箱根のマンションの改修作品では、更新が既存を否定するのではなく、過去における配慮、現代における配慮、そして過去に対する現代の配慮が交錯する状態をデザインすることで、都市が新旧の単純な対峙を乗り越え、全体として更新しながら陳腐化を逃れる試みがなされている。
話題は、氏がこれまで取り組んできた「メイド・イン・トーキョー」や「ペット・アーキテクチャー」といった都市研究にも及ぶ。これらは常にパチンコ店や角地の不動産屋など都市において「陳腐化される側」に光を当てる試みであり、同時に、そのような状況を生み出す社会の仕組みを読み解くことでもあった。陳腐とされる対象の中に固有のオーセンティシティ(本質)を見出す行為であったとも受け取れる。


さらに、アニハウスやフランス・パリの集合住宅の事例では、敷地と建物の関係や、窓を介した内外の関係の中に、社会的な仕組みや長く続く文脈を見出し、さらにその可能性を拡張する試みが紹介された。そこには、観察にとどまらない、実践を通じた陳腐化への抗いが浮かび上がる。
トークイベントの最後には、近年継続して取り組む千葉・鴨川の里山プロジェクトが紹介された。そこでは、環境と生活が資源を介して密接に結びつき、人の関わりが里山を維持し、里山がまた人の生活を支えるという循環が成立しているという。前述の「できるはずのことができない」ディストピアとは対照的に、この地では「そこにいる人とそこにある資源から、すべてができる」状態が実現されており、陳腐化の入り込む余地のない、いわば理想郷のような場所として位置付けられている。

筆者はこれまで、塚本氏の里山での活動について耳にしてはいたものの、都市の再発見に大きく貢献してきた氏が、なぜ田舎へ足繁く通い続けるのか疑問に感じていた。しかし今回のトークイベントを通じて、それらの関心が切り離されたものではなく、陳腐化に抗うという一貫した姿勢のもとに連続していることを理解することができた。
イベント終了後、筆者が現代都市の今後の展望を問うと、塚本氏は「都市はデタラメを極めるしかない」と応じた。無関係なもの同士が強引に寄せ集められる都市の状況と、里山のように循環的な関係性のもとに成立する環境を、現代の建築家は果たして重ね合わせることができるのか。デタラメ故に許容できる共存の余地はないのだろうか。そんな問いをさらに考えさせられる、刺激的なメッセージであった。
文/小林恵吾






寄稿者

小林恵吾(こばやし・けいご)
早稲田大学創造理工学部建築学科准教授、博士
一級建築士、オランダ王国登録建築士、NoRA TOKYO Inc.主宰
1978年東京生まれ。2002年早稲田大学理工学部建築学科卒業。2005年ハーバード大学大学院デザイン学部修士課程修了後、2012年までOMA-AMOロッテルダム事務所に勤務。主に北アフリカと中東地域のプロジェクトを多数担当。その後、早稲田大学創造理工学部建築学科助教を経て2016年より同大学准教授。NoRA TOKYO Inc. 主宰。主な作品に「第14回ヴェネチアビエンナーレ国際建築展日本館展示計画」、「東京国立近代美術館 Gordon Matta-Clark展会場計画」、「House +O」など。































